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■名前勝ち組「アントニオ」、名前負け組「ガタロの梅若」 執筆:まつうえ
★アントニオの名が全国に知れ渡るまで
 世間では「勝ち組、負け組」が訴えられているが、じゃりン子チエの世界も例外ではなかった。正式には「名前の勝ち組、負け組」と分かれている。
 幼い頃からずっと「アントニオ」の名前で通ってきたアントニオ。彼にはかなり自分の名前に執着心があったと思われる。スフィンクスの釜虎と全国を表日本、裏日本と分けて縦断制覇の旅をしているとき、裏日本を旅する釜虎には「アントニオが闘牛の牛を殺った」など半年遅れでアントニオのニュースが入ってくる。ここで大事なのは「アントニオ」という名前で語り継がれている所だ。ここで比較の対象として小鉄を思い出してもらいたい。
小鉄は今でこそチエから「小鉄」という名前をもらい、その前は「月の輪の雷蔵」と猫町銀座の親父につけられた。決して自分から名前を名乗っていない(雷蔵は自分でつけたがそれは西鉄親分から名前を考えるように言われたので作った。今回それは含まない)。そのため「石のこぶし」「どら猫発電機」とやくざ猫達から勝手に呼ばれていた。月の輪の雷蔵になってからも小鉄は「ワシの人生の半分は雷蔵の噂を消すことやったんやから」(番外篇第宇4話)と言っているので名前を名乗らず過ごしてきた。そのため「玉とりジャック」をはじめ最低20もの名前でやくざ猫の間に伝わっていく。(14巻12話、どらン猫小鉄予告編、7話)
 そう考えると、名前を全国に広めようとしたら自分から「ワシはアントニオじゃ。よう覚えとけ」と戦う前か後に必ず言わなければならない。そういう戦いを続けたおかげで、アントニオの顔も知らないような猫から、生まれてすぐ母親に捨てられた父親の顔も知らないジュニアにも名を知ってもらえるようになった。ジュニアが自分の父親がアントニオだと知ったのも、アントニオが有名だったおかげ。「自分アントニオにそっくりやな。ひょっとしたらアントニオの子供ちゃうか」と誰かに言われたのだろう。そう思うとみなしごのジュニアに父親が分かったのでよかったと思う。

★世之介と名乗った理由
 しかし全国に名を広めたアントニオにも関東で一時期「世之介」と名乗っていたことがある。これにも「アントニオ」の名前に執着心があるからだと考える。(27巻8話)
 東京に足を伸ばしたアントニオはやくざ猫との喧嘩よりも、女遊びがメインだった。
 人間の世界では、大阪に比べ東京のほうが美女が多いといわれているが、これは猫の世界でも同じだった。これまで見たこともない美女がそこら中に歩いていればアントニオも黙ってはいまい。手当たり次第美女猫と関係を持ち、それに怒ったやくざ猫とついでに喧嘩してた。アントニオは女と喧嘩に明け暮れるそんな毎日を送りながら、ある日考えたのだろう。  「こんなに女と遊びまわってるのを大阪の連中に知れたらどうしよう」と。
 大阪時代のアントニオとずっと過ごしてきた連中は喧嘩が好きだが、ローマの戦士を髣髴(ほうふつ)させるかっこいいアントニオを見てきた。しかし、東京で女と遊びまわってるのを知ったら「アントニオも単なるスケコマシやんか」と蔑むことだろう。それは人間の世界でも一緒である。男友達が急に女にモテだしたら決していい気はしない。幸い、アントニオの名前でなく「女たらしの人妻殺し白昼の通り魔ヒネ虎」で噂は広まってるけど、自分でこの名前を女性に名乗って口説くのは気がすすまない。なんかいい名前はないかと考え出したのが映画の主人公からとった「世之介」である。これなら大阪の連中に「スケコマシのアントニオ」と呼ばれないし、名前を汚されることもない。堂々と女遊びに専念できる。
 このように、全国に「アントニオ」と強い猫として(スケコマシじゃなくて)名を広げられたアントニオは名前勝ち組といえる。
★名前負けのガタロの梅若
 じゃりン子チエに様々な猫が登場したが、名前の分かってる中で一番名前負けしているのが、小鉄が必殺タマつぶしを最初に使った相手として語られる、ガタロの梅若である。(どらン猫小鉄予・予告編)

ガタロって何?

 ガタロは「川に落ちてる鉄くずを拾って売る仕事」と落語の「代書屋」で語られている。そこで疑問なのはガタロの梅若の息子の床若が「ハッタリのきつい名前や」というところ。ハッタリをかますのに「鉄くず拾いの梅若」で誰がびびるのか。ほかに意味があるのではないかと調べるとあった。落語「商売ねどい」のなかで「関東では河童、関西ではガタロと呼ばれてます」という件がある。「鉄くず拾い」と「河童」なら「河童」のほうがまだハッタリをかませる。この場合はガタロの梅若のガタロは「河童」という意味が正しい。

ガタロでないガタロの梅若

 河童はご存知のように川の中に生息し泳ぎが速いが、梅若は水の中で闘っているシーンはどこにもない。河童は陸にあがると人間相手に相撲をとる力自慢だが、梅若の技はいきなり出刃包丁から製図ペンまで投げる。力ではなく飛び道具に頼っている。極めつけは河童は相撲で勝った人間の尻小玉をとるが、梅若は相手の尻小玉どころか己の金玉を小鉄にとられてしまった。(番外篇5話、どらン猫小鉄予・予告編)
 ほっておいても噂が広まるアントニオに比べ、ガタロの梅若は小鉄が一芝居打たないと強いと分からないローカルな猫だった。小鉄に金玉をとられてもこれだけ差がある。これが名前負け組の理由。


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