竹本家の生活事情

伊藤 顕

【目次】

収入

チエの家での収入源は二つ、ホルモン焼き屋の営業収入とヨシ江の洋裁学校講師としての給料がある。それぞれどのくらいの収入があるかは想像することしかできないが、ここで注目すべき点はチエの家ではヨシ江の給料だけで生活費を賄うことが可能だという点である。それはヨシ江は職が決まった時点でチエに店をやめるように勧めてることで明らかになっている(2-96)。つまり店の収入はそのまま基本生活費以外の金として使うことが可能だということになる。たまに店がピンチになることはあっても生活がピンチになることがないのはこのためであり、このことからレイモンド飛田やジュニアの言葉は外見から判断される偏見であることがよくわかる。

ホルモンの値段がよその店に比べて20円も安い(13-30)というのもこのあたりの余裕からきているのかもしれない。それでも店の収入は決して少なくなくチエがヘソクリをしたところでびくともしない。

支出

光熱費については店の方の支出として扱っている疑いがある。これまたレイモンド飛田に「これだけ…?これで全部?」(8-97)などといわれるように、チエの家はどう見ても住居用ではなく店舗の座敷に無理矢理住んでいるという感じがある。これならばガス・水道・電気・汲み取り代などは充分店の必要経費として落ちるのではないだろうか。

また仕入れの金はおバァはんのところからもらっている(1-4)にもかかわらず、しょうゆ屋には「チエちゃん」宛ての領収書をきってもらっている(20-102)ことを考えると、もしかしたら調味料その他細かいものまで店の支出として扱っているのではないだろうか。

おバァはんが毎年春に苦労している税金対策(6-86)はこのことなのかもしれない。そんなこんなで竹本家としては光熱費はゼロであると思われる。

そうでなくても「じゃりン子チエの秘密」Q55でも触れられているとおりチエの家には驚くほど電化製品が少ない。おバァはんが天井へ伸びる電気コードを見て、他に思いあたるものがなく「洗濯機でも天井にあげましたんか」(19-91)というほどない。

あるものといえば照明が蛍光燈ではなく電球で店と座敷に一個づつ(1-26,35)、台所には照明がはないようで、台所で仕事をするときは店に明かりが点いていないときには冬でも常に座敷からの戸を開けたままにして明かりをとっている。トイレについては何ともいえないが汲み取り式であるうえにちゃんと窓がある(42-194)から、もしかしたらトイレにも照明はないのかもしれない。あと電化製品は冷蔵庫、ミシン(30-240)、電気釜(37-96)、掃除機(4-89)、コタツ(1-164)、洗濯機といった感じである。

そのほか、おバァはん夫妻はまだまだ現役で働いており独立した家計を保っているためにその生活の面倒を見る必要はなく、親戚付き合いもないために(9-51)冠婚葬祭に関する支出も少ないと思われる。

衣食住

形として残るものはテツが全部質屋に入れてしまうので買わない竹本家では、あと普段の支出としてかかるのは衣食住についてくらいである。

テツは食事について特にどうこういうことはなく、ヨシ江が手を抜いて(?)朝ご飯に菓子パンを出しても文句一ついうことはない(52-167)。せいぜい目玉焼きが半熟かそうでないか(20-201)とか、すき焼きに入れる砂糖の量に注文をつける(19-21)くらいなものである。そもそもテツが食べ物の値段にあたるタチなので(49-112)竹本家の食卓には高級食材が並ぶことはほとんどない。しいてあげれば正月のカズノコくらいだろう(5-71)。

それでいて竹本家では人を夕食に招くことをよくする。すき焼きパーティー(13-81)や餃子パーティー(23-148)をやろうとしたり、バラ寿司(ちらし寿司のようなものらしい)を多めに作ってお土産に持って帰ってもらったりしている(55-53)。拳骨などは渉に嫁さんが来るまではちょくちょくチエの家で夕食をご馳走になっていたほどだ(2-98)。

このように竹本家では食費については形として残らない分豪華ではないがそれなりにかけているようである。

服飾費についてはチエ、テツ、ヨシ江ともに高級そうなものはあまり着ず、いつも同じような地味な格好をしており、あまり金のかかっているようには見受けられない。よそ行きの着物についてはヨシ江が大抵こしらえてしまうのでこれもそれほど金はかからない。ほかにテツはスーツを2着(1-233,49-96)、ヨシ江は1着(51-169)持っており、これは毎回一式をクリーニングに出している(19-112)ようだがほとんど着ることはない。

菊の家

チエの家はテツがときどき家を担保にバクチを打っている(2-236)ことからこれは持ち家であるので家賃は必要ない。ところでおバァはんの家はチエの家に比べ驚くほど広い。ひと部屋しかないチエの家に比べ、少なくともおバァはんの家には部屋が4つはあり(28-44)、チエの家にはない風呂場まであるのだ(23-131)。

この家を用意したのはテツが結婚したときのようであるから(9-211)、どう考えてもこれはテツ夫婦のために用意したものである。それではなぜチエ一家は狭い方の現在の家に住んでいるのだろうか。考えられることをいくつか挙げてみる。

どれもテツのわがままである。あの家が借家だという既述は物語中では出てこないが、いくら12年以上前とはいえ近くのコケザルの家が5800万円もする(17-128)ようなところの家を新婚夫婦にポンと一軒買いあたえるだけの財力と親心はなかったであろう。

ぜいたく費

ぜいたく費といっても竹本家の人間は特に金のかかる趣味を持っているわけではない。おバァはんがたまにパチンコをやったりするくらいだろうか。テツのバクチはそのほとんどが元手をかけていなく、負け分は常に踏み倒しているので支出には含まれない。旅行をすることは菊夫妻は時々白浜へいったり(12-54)老人会の旅行にいったりしている(51-109)が、チエ一家は旅行にいくことはほとんどない。

ぜいたく費としてこれにあたるものはせいぜい外食くらいのものだろうか。竹本家は意外と外食が多い。しかし外食といってもうどん屋か間食程度のものが多く、高いものはほとんど食べない。チエにしても「スパゲティより天ぷらうどん」(21-74)というくらいでレストランなどにいくことはない。

このように竹本家の人間、特に「物を安う買う名人」という菊に代表される女性陣は、よくいえば倹約家、悪くいえばケチ、しみったれたところがあり無駄遣いは一切しないのだ。

ぜいたくというわけではないが、判明しているだけで一番金を遣ったのはレイモンド飛田の借金20万円ちょっとを肩代わりしたことだろうか。ただしこれは現物支給で現金で支払ったわけではない(19-207)。その他万単位の金が遣われたのは厄除けハンコ代10万円(25-48)、テツのバクチの負け金5万円(19-39)、占い料2万円(42-67)、ステーキハウスでのステーキ代1万5千円(55-182)コケザルが割ったガラス代1万円(18-55)で、これら支出がすべて男性陣の支出であるのが面白い。一番金遣いが荒いのは意外にもおジィはんであるというのもまた面白い。

収支総見

このように竹本家では収入はそれなりにあるのだが支出がほとんどないためにむやみに現金ばかりが銀行や郵便局に増えていっているものと思われる。テツが囚われたときに菊が何気もなく200万円もの金を用意できた(1-156)ことからもそれがうかがえる。貧乏神といわれるテツだが、テツを見ていると働かないで遊んでいる気にもなれず、テツのおかげで金を使うこともできずとは何と皮肉なことであろうか。



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