★作品解説 & はるき悦巳先生のコメント★

 上の表の作品名をクリックすると、この窓に、作品の簡単なストーリー、解説、そしてはるき悦巳センセのコメントが表示されます。
(1) 政・トラ ぶっとん音頭
 はるき悦巳の漫画家デビュー作。第1回平凡パンチ劇画賞佳作入選作。
 三味線をならすと跳び上がる芸をもつ猫をあやつる芸人の家に生まれ、猫に芸を覚えさせるために猫を酷使する父親に反発を抱きつつ、結局父と同じような道を歩んだ政吉の人生をたどる。
 背景の絵柄に、はるき悦巳が信奉する、つげ義春の影響が色濃く出ている。
▼「あれは、漫画描こうと思って一番最初描いたんで、もちろんあかんかって放ってあったんで。いよいよ金がなくなってもうあかんなあ思ってたら、嫁さんが平凡で募集してるいうキリヌキもってきたんかな?そんであれ、描き直したんよね。」(ぱふ 80.5)
▼「出版社に持ち込んだのは3回だけ。『次の作品も見せてくれ』いわれても、次に足を運ぶのは2年半もたってから。デレデレしとったんやなあ。」(週刊文春 80.6.12)
▼「佳作いうて金がきて、感動したなー。そやからあれ、何も知らんときに描いたんやから、あのへんが一番普通の俺が出てるんちゃうんかな。」(ぱふ 80.5)

(2) 伝説
 はるき悦巳作品中、異色中の異色作。聖書の一節をもとに中世西洋の戦記を描く。
 かつて国を救ったという石の巨人にまつわる伝説と、戦士であるがためにそれをかたくなに否定しようとする主人公イシスの心の動きを描く。

(3) 舌町物語
 荘久一原作であるが、はるき悦巳にとっては最初の連載。6~8月にかけて連載されたようだ。
 東京の下町を舞台に噺家の弟子として修行に奮闘する若者の話。

(4) ドンチャンえれじい
 家業であるお好み焼き屋をつぐことに漠然とした不安をいだき、家出した主人公ミツルだが、結局たいした芽も出ず帰宅する。しかし亡き父親と入れ替わるようにやってきたというドラ猫のために自分の居場所はすでになくなっており、それを取り戻そうと四苦八苦する。
▼「『ぶっとん音頭』は全部創作だったけど、『ドンチャンえれじい』のほうは、半分くらいホンマの話ですよ。ちょうど親父が死んだときに、俺が帰ったら猫がおった。親父が死んだときに入ってきた猫やと母親に紹介されて(笑)。」(朝日ジャーナル 80.8.8)
▼「母親が親父の生まれ変わりやていうとったわ。えらそうな猫でね、やたら大きくて俺なんかケンカしたら負けそうでね。家から帰ると居づらい感じがするんや。一番ええとこにえらそうに座っとる。」(ぱふ 80.5)
▼「なんとなく家を出てゴロゴロしてるようなどうしようもないやつが帰ってきて、ねぐらを猫にとられて、居場所がのうなったらどうなるのかなと思って描いた。母親と猫は仲良うできてるわけでしょう。こいつはうまいことやってるなあいう感じがしてね(笑)。」(朝日ジャーナル 80.8.8)

(5) じゃりン子チエ
 いわずと知れた、はるき悦巳の代表作。第4話までは単発の読み切りとして登場、その後12話まで短期集中連載された後、第2部より週刊連載となる。97年8月の第67部11話で完結。
▼「最初、編集部から、1つ描いてみいへんかいわれましてね。それがたまたま面白かったんかな。もう1コいうんで続けていっただけやから。」(週刊文春 80.6.12)
▼「はじめから長期展望の上でキャラクターを設定していたら、また違った作品になったでしょうが、展望をもたないところからスタートしているものですから、こういう終わり方をしたいと思うても、予期しないほうへ歩き出していくんです。いくら自分が作り出した世界というても、チエはチエで生きてるんやなと思うんです。」(灰谷健次郎対談集 81.12)
▼「『じゃりン子チエ』で、テツが仲人する場面があります。そのときも、ドジをやらかす設定にしようとも考えたのですが、なぜかうまく行く場面になってしまったんです。テツがみんなに拍手をされるなんて奇異な出来事なんで、説明を付け加えようと思いましたが、それもやめました。成り行きでしゃあないんです(笑)。」(灰谷健次郎対談集 81.12)
▼「(女の子を主人公にしたのは)漫画描こうかと思たとき、なんとなく男いうのは、理屈みたいなものがないとどうしようもないところがある。女の人は俺にとっては、ただ生きるという技に関しては、とうてい及びもつかんような感覚がある。ましてそういうのが子どもやったらどうなるんかないう感じで最初描いたんです。」(朝日ジャーナル 80.8.8)
▼「原作つき(舌町物語)のとき、東京が舞台やったし、知らんこと多かったんよね。そやから、知ってる範囲で描きたいいうのがあったね。チエちゃんに出てくるのは全部カンで描いてるからね。」(ぱふ 80.5)
▼「あんまり知らへんとこ考えんの面倒でしょ。嘘描かれへんから。僕は動くのん嫌いなんです。そやから思い出す所いうたら、小学校で遠足に行った東大寺とか法隆寺、京都…貴重な、僕の動いたとこですよ。近所ぐらいしか興味ないんですよね。」(週刊文春 81.4.30)
▼「『あっ!危ないっ!つづく』いう感じでは描いてない(笑)。その巻、その巻で話が完結してる。そやけど、あるところへいく経過みたいのを楽しんでるほうやからね。まとめて読んでくれた方が、こまかいみんなの感情みたいなものがなんとなくわかってもらえるやろな。」(朝日ジャーナル 80.8.8)
▼「正直いって、なぜウケるのかわからんのです。むかしはチエのように子どもが働くのは普通やったし、あんな親子がいたら面白いなあ、と思っただけで。」(朝日新聞81.3.2)

(6) 巨人窟
 阪神ファンの話。最終的に主人公は、巨人ファンに飼われ、巨人ファンに転向させられた挙句に、巨人が負けたときには阪神のユニフォームを着させられ、ウサ晴らしの的になる。
 かなりの悪役として巨人ファンを描いており、巨人ファンには相当な悪評を受けたと想像に難くない。
▼「『本当は、オレ、巨人の悪口言うのって嫌いなんよね。なんか巨人の話してると、暗ーなってくるもんな。「巨人窟」も暗いけどね。あれ、何やったんやろ、なぜ描いたんかな?」(Number 82.12.5号)

(7) 日の出食堂の青春
 家業を手伝うわけでなく、ただ毎日を怠惰に過ごす4人組を、彼らのアイドル的存在である美津子の結婚や、映画館「銀映」の閉鎖などを通して描く。
 1982年9月にNHKでドラマ化(全20回、熊谷真実、太川陽介主演)
▼「カスタムでやってる『日の出食堂』いうのも、友達が食堂やってて、いろいろ集まって悪い事やっとったね。」(ぱふ 80.5)
▼「僕はまだ『じゃりン子チエ』を描き始めた頃で…ということは漫画を描き始めた頃になるわけですが、もうヤケクソに忙しかった。わけのわからん男がいきなり週刊誌で連載などを始めていたんだから。」(双葉社刊単行本「日の出食堂の青春」あとがき)
▼「カスタムが出たとき『ええ雑誌が出たなあ』と思ったものだ。『隔月誌やもんなあ。1つ描いたら2ヶ月も休めるのか』そんなとき、カスタムから『やってみないか?』といわれた。『ちょっと待てよ…?』と思ったが、『〆切まで、まだ2ヶ月もありますよ』と言われると、『そうですね。2ヶ月に1つぐらいかけますよね!ハハハ…』この後、自分が週刊誌の連載をしていたことを思い出したのだ。」(カスタムコミック 79.11)
▼「いつものように今回(第4話)も遅れ遅れでひどいことになってしまった。追い込まれると、だんだん読みが甘くなってしまう。最初は締切日に原稿をあげなければと焦っているのだが、締切日が近づくにつれ、間に合う、大丈夫やというふうになってしまうのだ。なんとも情けない話だ。しかし甘く考えないと今頃は自殺もんだ。真面目になるのが怖いというのが正直なところだ。それにしても嫌な日が続いている。」(カスタムコミック 80.5)

(8) 右向け右!
 飛行機に乗って空を飛ぶという共通の夢を抱きつつ、未来へ向かって生きる少年たちと、戦争をひきずり過去にこだわって生きる老人の対比を描く。
 扉のページで作者名が「はるき悦己」と、間違った表記をされている。

(9) 力道山がやってきた
 戦争により崩壊した家庭に育ちつつ、自らを「大物」と呼び、近所からも一目置かれるような主人公の少年、咲を描く。実の親子であることもおおっぴらに言うことができない、そんな時代の話。
▼「あの風景が僕にとって思い出の風景なんです。ああいう状況の中で子どもが生きていく…僕も当事者の部分があったから、ああいうことでよかったのかなあという思いがあるわけです。僕はストレートにいわんから、まわりくどいとか読者にうまく伝わらないといわれる。主人公は悩んでいるかもしれないのに、本人の口からその悩みを語らせることができんのです。」(灰谷健次郎対談集 81.12)
▼「僕が中学まで育ったというところは、親子の関係がめちゃめちゃで、なんかわからんようなところがありました。両親がいないという友達の家に遊びに行くと、黒いシュミーズを着てる母親がなぜかいたりするんです。なんか新東宝のポスターを見るような感じがしたものです。」(灰谷健次郎対談集 81.12)

(10) じゃりン子チエ番外篇
 濡れ場も生々しい流血場面も出てこない「じゃりン子チエ」本篇の代わりに、猫の小鉄とジュニアが繰り広げる色恋、ケンカの話。
 単行本化に際して話の順番を多少入れかえている。
▼「猫の小鉄といったキャラクターは、人間だったら照れてしまっていえなくなるようなことを喋らせる便利な役としてつかっています。」(演劇「じゃりン子チエ」(駒来慎脚本)パンフレットより)

(11) ヒラメちゃんの日曜日
 特別付録と銘打っている。ヒラメちゃんの夢が、例のごとくシュールに描かれている。
 この作品も「じゃりン子チエ」の番外的な位置づけになるだろう。
▼「あの子もコンプレックス持ったり、いろいろ傷ついているけれども、あかんのやと思いながら机に座ると寝てしまう。そやからヒラメちゃんのあの神経で元気に生きていけると思うのね。」(朝日ジャーナル 80.8.8)

(12) ガチャバイ
『力道山がやってきた』の主人公・咲がここでも主人公だが内容は異なる。もともと「ビッグコミックスピリッツ」創刊当時に連載されていたが、その後、作者の都合で連載は中断した。98年3月より「ビッグコミック」で連載が再開された。
▼「『ガチャバイ』ちゅうのは、そやな、どおしようもない奴らのことやねん。」(ビッグコミック 98.3.25)

(13) どらン猫小鉄
 予・予告編と予告編(原題はPART1・PART2)、本編の2つはもともと別のものだが、単行本化に際し1つにまとめられた。前者は単行本初収録が前述の「ジュニア版」であるためか、ルビがふられている。
 「じゃりン子チエ」名脇役の小鉄が「小鉄」と呼ばれる前のエピソードを、小鉄が「月の輪の雷蔵」と呼ばれるようになった事件を中心に一大娯楽活劇として描く。
 はるき悦巳によると「人間でやるとクサかったり、生々しかったりすることを猫にやらせた」作品らしい。

(14) じゃりン子チエ予告篇
 児童向け単行本「ジュニア版・じゃりン子チエ」のために書き下ろされた10頁の作品。
 「じゃりン子チエ」は、児童には設定が難解なため、簡単にチエとテツ、その周辺の因果関係を簡潔にまとめている。

(15) オッペラ甚太
 舞台はとある山村。生来、破壊的な声の大きさを持つために、大声を出すことを止められている少年が、ひょんなことから世界的なオペラ歌手に認められ、世界一のオペラ歌手になるサクセスストーリー。

(16) 西の幸福(しあわせ)
 東京の大学に進学し、アパートで一人暮らしを始めた西野福男。ある日、そのアパートに「腹違いの兄」と名乗る見ず知らずの男が住み着き、福男の生活を翻弄させる…。読み切り作品の中にはるき独特のストーリーでは語られない「登場人物の生い立ち」を自然と読みとらせる不思議な作品。

(17) 夏の虫
 年齢のためにしぶしぶ現役を退きやることのない老人達が、まだまだ自分達は現役でやれることを証明するために、たまたま引っ越してきたうだつのあがらない漫画家志望の男をつかまえてプロダクションを起こした…まさに飛んで火にいる「夏の虫」

(18) すがすがしい一日
 はるき悦巳自身をモデルにしたと思われる作品。長期連載を終え開放感満ちあふれる主人公は、すがすがしい気分で新しい自転車にまたがって外へ繰り出すのだが…
▼「ただ、ただ、〆切に追われる毎日でした。こんなに長く描いてしまうと、終るときはどんな気持ちになるだろうかと想像してみることもありました。きっといろんな思いで…そう思っていたのですが、最後までやっぱり〆切におわれて時間のことばかり考えています。」(週刊アクション 97.8.19)

(19) エンゼル~ある失踪と帰還~
 ガキ大将「エンゼル」は中学生になった、ある日、突然、一家もろとも夜逃げした。この夜逃げから20年後、エンゼルは、かつての子分たちの前にフィアンセを連れて姿を現したが、エンゼルの本当の姿は…。菊崎健二(カルメラ兄)が1コマだけ友情出演?!しています。

(情報提供=伊藤顕氏、松浦康浩氏)


総合目次論文目次相互リンク集堅気屋倶楽部