『じゃりン子チエ』が双葉社の週刊漫画雑誌「漫画アクション」に登場したのは1978年の秋のことである。ただし、当初は読み切りの短編漫画ということで連載が始まった。当時「漫画アクション」で人気だったのはモンキーパンチの『ルパン三世』。しかし『じゃりン子チエ』が本格的に連載されると『ルパン三世』は、追われるように最終回となってしまった。ちなみに、この項目の「チエちゃん登場」は、第1話のタイトルである。 世代交代とはいえ、両方の作品を比べてみると、全く展開する世界が違う。ルパンは世界を股にかけて暗躍する大泥棒。その大泥棒を駆逐したのは、なんと、日本の大阪の下町のホルモン焼屋に生まれた少女だった。
1980年5月26日『朝日新聞』の書評欄で、作家の井上ひさし氏が大絶賛。これがきっかけで、単行本が爆発的に売れ出す。ついには「劇画『じゃりン子チエ』のナウな読み方」なる週刊誌記事まで登場した。(『週刊文春』80年6月6日号)
さらに、原作を映画化する話が持ちあがり、映画会社、テレビ局12社が上演権の争奪に躍起になった。ほとんどの社がアニメ映画化する案を持っていたが、ある映画会社は実写版にして、テツ役に菅原文太を起用するという案を持っていたそうだ。
上映権争奪の結果、東宝、キティミュージック、東京ムービー新社の3社が共同してアニメ映画を制作することになった。
スタッフにはそうそうたるメンバーを揃えた。監督はテレビアニメ「アルプスの少女ハイジ」などを手懸けた高畑勲氏。アニメの世界では、知る人は知る、ものすごい人なのだ。そのためか映画用のチエも、なんとなくハイジっぽい。
声優陣には、チエを当時、参議院議員だった中山千夏、テツに西川のりおなど関西の漫才師らを多数起用し、81年4月に上映された。漫才ブームも手伝って、当時はかなり話題になった。ちなみに『キネマ旬報』のランキングでは日本映画の36位になっている。
映画では、原作1~2巻がほとんど、そのままの形で話が進められるが、同居予行演習の場面では、なぜか原作の金閣寺ではなく「ニコニコ遊園地」という所へ行くのだ。西萩駅から南海電車で行くところからモデルは「みさき公園」の遊園地だろうと推測される。 そこでチエはメリーゴーラウンドや観覧車に乗ったり「普通の子供」をエンジョイしていた。ゴーカートに乗るシーンでは、チエを見守るテツはヨシ江の肩をそっと抱く。その場面をチエが見ていたため、テツはハッと気付き、慌ててヨシ江の肩の手をどける…。
原作では、一度もテツからヨシ江の体に触れるシーンはない。(その逆はあるのだが…)。 もし、テツがこの映画を見ていたら、きっと、こんなことを言うだろう。
「なっなっなに~」
81年10月、大阪の毎日放送がテレビアニメの放映権を獲得。TBS系全国ネットで金曜日夜7時に放送された。
声優陣は、中山千夏(チエ)、西川のりお(テツ)、上方よしお(ミツル)以外は、すべて映画と総入れ替え。中山千夏と、後半に登場する朝子役の松金よね子以外は、レギュラー出演者をすべて関西出身者にした。ただ、当時の声優業界には関西出身者が少なかったのか、関西で活動する舞台俳優やドラマ俳優が多く起用された。
放送当初は半年間、26回シリーズの予定だったが、人気は加速し、このアニメシリーズは82年3月まで64回放送された。関西はもちろんのこと、関東地区でも20%以上の視聴率を稼いでいたが、放映期間途中で、テレビ朝日系列が、このウラに当時日曜日の午前に放送されていたアニメ「ドラえもん」をぶつけてきた。そのため、視聴率は徐々に「ドラえもん」に取られてしまう運命にあった。ただし、関西地区では「ドラえもん」進出にも負けず、常に「ドラえもん」の上を突っ走っていた。
アニメ人気にあやかって、双葉社は『ジュニア版じゃりン子チエ』なる単行本を発売。これは、原作単行本の吹き出しにルビを打って再編成。それに、ちょっとしたクイズやゲーム、シールなどのオマケがついた単行本である。現在は絶版。
ところで、アニメ終了後も大阪・毎日放送では夏休みや春休みなどに「じゃりン子チエ大会」と称して何度も再放送された。また、その視聴率も、再放送の割りには高く6~8%台を稼いでいた。
名古屋でもCBCテレビと、ネット局ではなかった中京テレビでアニメを数回放送している。
それから10年後、91年秋から続編アニメ「チエちゃん奮戦記」が毎日放送と西日本の一部のテレビ局だけで細々と放送された。
しかし、制作局の毎日放送では土曜日の夕方5時に放送されていたため、関西人でもこのアニメシリーズを知らない人が多い。
約10年のブランクで再開されたにも関わらず、前のシリーズの続きの話も含まれていた(前作の最終回で応援団とテツ一家が喧嘩するのだが、続編ではその応援団長が頭を剃ってテツに謝りにくる話がある)。
しかも、前作で「お好み焼屋のおっちゃん」「地獄組のボス」としか呼ばれなかった百合根や飛田が、このアニメでは最初から「百合根はん」「レイモンド飛田」と呼ばれたり、原作では伏線があってカルメラ兄弟はラーメン、餃子の店を開店させるが、このアニメで、突如、カルメラ兄弟がカルメラ屋からラーメン餃子の店を開店させるなど、前のシリーズのアニメを知っているが原作を知らない視聴者には驚く設定となっている。
この続編アニメでは、ミツル、マサル、タカシ、カルメラ兄弟、飛田などの声優が前作と替わり、しかも、大阪弁のアクセントが正確でないため、全く別の作品のように感じられた。結局、続編「チエちゃん奮戦記」は1年たらずで打ち切られた。
声の出演(レギュラーメンバーのみ・敬称略)
名称 | 映画 | 81年アニメ | 91年アニメ |
---|---|---|---|
竹本チエ | 中山千夏 | 中山千夏 | 中山千夏 |
竹本テツ | 西川のりお | 西川のりお | 西川のりお |
竹本ヨシ江 | 三林京子 | 山口朱美 | 山口朱美 |
竹本 菊 | 京 唄子 | 鮎川十糸子 | 鮎川十糸子 |
竹本(爺) | 鳳 啓助 | 伝法三千雄 | 伝法三千雄 |
平山ヒラメ | (登場せず) | 三輪勝恵 | 三輪勝恵 |
平山マルタ | (登場せず) | 久米 学 | 上野真紀夫 |
平山(母) | (登場せず) | 嶺 はるか | 佐藤京子 |
丸山ミツル | 上方よしお | 上方よしお | 国分郁男 |
丸山ノブ子 | (登場せず) | 志乃原良子 | 志乃原良子 |
丸山タカ | (登場せず) | 二葉弘子 | 松田春子 |
小林マサル | 島田紳助 | 入江則雅 | 谷 真佐茂 |
小林(母) | 太田淑子 | 奈千宮子 | 奈千宮子 |
タカシ | 松本竜介 | 井手上勝富 | 長岡伸明 |
花井 渉 | 桂 三枝 | 伊藤保夫 | 隈本晃俊 |
花井 拳骨 | 笑福亭仁鶴 | 須永克彦 | 須永克彦 |
向井 朝子 | (登場せず) | 松金よね子 | 押谷かおり |
百合根光三 | 芦屋雁之助 | 表 淳夫 | 表 淳夫 |
菊崎 健二 | ぼんちおさむ | 家野繁次 | 武原洋好 |
山下 勘一 | 里見まさと | 原 一平 | 山崎博之 |
小鉄 | 西川きよし | 永井一郎 | 永井一郎 |
アントニオjr | 横山やすし | 山ノ内真理子 太田淑子 |
太田淑子 |
レイモンド飛田 | (登場せず) | 大橋壮多 | 田畑猛雄 |
仁吉 | (登場せず) | 南条好輝 | ホープ・ユタカ |
天野コケザル | (登場せず) | 小川聡明 | 細見勇樹 福信一郎 |
天野勘九郎 | (登場せず) | 多賀 勝 | 多賀 勝 |
※映画版ではテツの博打仲間としてオール阪神・巨人が声優として出演しています。
※声優陣の芸名は、現在の芸名を使用。配役名は原作の登場人物名としています。
※アントニオジュニアの声は、81年版アニメで山ノ内真理子が初期のごく僅かを担当していました。
※アニメでアントニオジュニアの声を演じた太田淑子は、映画版でマサルの母を演じており、中山千夏、西川のりおとともに全ての作品に登場しています。
※91年版天野コケザルの声は14話まで細見勇樹、15話から福信一郎が担当しています。
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