1999年秋に大阪・新歌舞伎座で上演された「浪花人情おもろい町」、2000年夏に名古屋・中日劇場で上演された「浪花人情パラダイス」、また2003年8~10月に全国公演された「平成15年度松竹特別公演・人情喜劇おもろい町」は、タイトルこそは違うものの『じゃりン子チエ』を舞台化したものです。このページでは両公演の主立った内容をご紹介します。
なお、名古屋公演のデータについては中日劇場制作部さまより、2003年の全国公演については松竹株式会社演劇部さまより資料を提供していただきました(左は名古屋公演のプログラム表紙=テツ役の赤井英和)。
(文中敬称略)
基本的に原作を踏襲しています。
主演のテツ役にはテツと同じ西成区出身で元ボクサーの経歴を持つ赤井英和が演じています。
また大阪・名古屋公演でチエ役を努めたのは大阪出身の10歳の女の子・谷口由記は、原作のチエと同じヘアスタイル、服装で舞台に登場。「浪花人情おもろい町」が舞台デビューとは思えないほど、ネイティブで堂々とした大阪弁は原作からそのままチエが飛び出してきたような臨場感がありました。2003年の全国公演ではチエ役は中尾洋子にバトンタッチされました。
しかし、名前が原作と異なっている登場人物が多く、じゃりン子チエの原作をよく知る人にとっては「なんとなく、ぎこちない」ものと感じられるはずです。
たとえば、チエの友達としてヒラメや、タカシは原作のまま、舞台でも登場するのですが、マサルは、なぜか原作の「小林マサル」ではなく「幸田マサル」と名乗り、しかも原作にほとんど登場しなかったマサルの父親はテツの素行を厳しくチェックしている巡査部長という設定になっています。
また、舞台で準主役となる「トオル」は、原作31巻に登場するヨーデルサトミの子供がモデルになっているのですが、年齢は16歳という設定になっています。
ちなみにトオル役は「関西ジャニーズ」から配役が選ばれたことから、大阪、名古屋ともに、じゃりン子チエの原作を知らない若い女性の観客動員が多かったそうです。
物語は原作の、それぞれの要所が凝縮され、また、舞台第一幕では原作にはない「テツの葬式」が盛り込まれるなど、原作完結で物足りなさを味わっていたじゃりン子チエファンには新鮮なストーリーが展開されました。
舞台版の 主な 登場人物 | 対応する 原作の 登場人物 | 舞台版の配役 | ||
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浪花人情おもろい町 大阪:新歌舞伎座 99年10月 | 浪花人情パラダイス 名古屋:中日劇場 00年8月 | 人情喜劇おもろい町 全国公演 03年8~10月 | ||
竹本テツ | 赤井英和 | 赤井英和 | 赤井英和 | |
竹本ヨシ江 | 音無美紀子 | 音無美紀子 | 音無美紀子 | |
竹本チエ | 谷口由記 | 谷口由記 | 中尾洋子 | |
竹本菊 | 赤木春恵 | 園佳也子 | 青柳喜伊子 | |
おジィ | 大村崑 | 高田次郎 | 小島慶四郎 | |
花井拳骨 | 遠藤太津朗 | 遠藤太津朗 | 和崎俊哉 | |
お好み焼き屋のオヤジ | 百合根光三 | 逢坂じゅん | 逢坂じゅん | 逢坂じゅん |
カルメラ屋タツオ | 菊崎健二 | 誠直也 | 曽我廼家玉太呂 | 桐山浩一 |
カルメラ屋トシ | 山下勘一 | - | 内田岳志 | 内田岳志 |
カルメラ屋ケン | - | - | 別所清一 | 林直生 |
警察官ミツル | 丸山ミツル | - | やなぎ浩二 | 小宮健吾 |
牧野トオル | - | 村上信五 | 丸山隆平 | 佐野瑞樹 |
3作品とも、脚本は小松江里子、演出は吉本哲雄。
※プログラムより転載
大阪の下町にあるホルモン屋。中では葬儀の準備がすすめられていた。
日ごろの悪行の上に、昨日は自分の女房、子供がジフテリアにかかったと偽り金をせびりに来たテツに業を煮やしたキクが息子を懲らしめるために葬儀を手配したのだ。
制止する亭主を後目に大声で読経を続けるキク。そこへ「テツの死」を聞きつけた仲間たち。お好み焼き屋にカルメラ屋タツオたち、警察のミツルに漫才コンビの花園れんげ・たんぽぽ(配役=今いくよ、今くるよ)らが駆け込んでくる。
妻のヨシ江も加わって、しみじみと思い出話にふける一同。
しかし、子供の頃からごんだくれ、今は仕事もせず博打と喧嘩三昧の行状はとても誉められたものではない。
娘のチエには金がかかるから墓はいらんと言われ、妻のヨシ江にはせめて並以下でいいから真面目に働いてくれたらとため息をつかれとうとう辛抱仕切れず押入から飛び出してくるテツ。
しかし、その懐からは仏壇においてあったはずの香典袋が…。
その翌日、ところ変わってお好み焼き屋。
相変わらずヤクザに因縁をつけるテツの前に、トオルという少年が現れる。
トオルは16年前に自分と母親を捨てた父親を探していた。その父親こそ目の前にいるテツだというのだ。
博打と喧嘩はすれども女遊びだけはしないと思われてたテツだが、トオルが持っていた手紙はまさしくテツ直筆のもの。おまけに背中のほくろの数と位置を言い当てられては弁明の余地はない。
これには、さすがのヨシ江も怒り心頭、売り言葉に買い言葉で家を飛び出してしまう。1週間を過ぎてもヨシ江は帰る気配がない。
「頭を下げて戻ってきてもらえ」という恩師・花井拳骨の言葉にもテツは意地をはるばかり。それでもお互いにまだ気持ちが残っているのは一目瞭然。
テツとチエが参加した相撲大会で思わずテツに声援をおくるヨシ江と、それを聞いた途端に緊張で固まってしまうテツ。
しかしそのせいで決勝戦に敗れたテツはますます意地をはってしまう。
賭場で警察と大立ち回りを演じた翌日、周囲の画策でヨシ江と対面することになったテツだが、カルメラ屋たちの乱入でせっかくの良いムードもふいに。いよいよ離縁か、というところでトオルの母・秋代がテツを訪ねてあらわれた。
そして秋代の口から事の真相があきらかにされる。果たしてテツの疑いは晴れるのか!?
※プログラムより転載
大阪天王寺、通天閣の見える街。その街の名物ホルモン屋、その店の中で葬儀の準備がしめやかに? いや賑やかにすすめられている。実はこれは、日頃から店はチエに押しつけ、親を騙して金をせびり、博打と喧嘩に明け暮れるこの店の主、ごんたくれのテツを懲らしめるために母親・キクが仕組んだ芝居なのだ。
そうとは知らぬ町内の仲間? いやテツに魅入られた可哀相な人たち、すなわちお好み焼屋、カルメラ屋タツオ、トシ、ケン、売れない漫才師・れんげとたんぽぽ(配役=今いくよ、今くるよ)、警察官ミツル達が駆けつけ、突然のことに驚きながらも、悲しいやら嬉しいやら、複雑な気持ちで思い出話にふける。事情を知るおジィは傍らでおろおろするばかり。
学校から帰ったチエはすぐにキクの企みと気づき、集まった人たちにホルモン焼きを出してせっせと商売に励む。
そこにテツが帰ってくる。当然のことテツの怒りが爆発してその荒れようといったら……とってもこの先は書けません。
そんなテツも妻・ヨシ江にはメロメロでチエという子までいながら、今も2人きりになると、もじもじしてハッキリと物が言えないのだ。
そんなある日、テツを訪ねてトオルという少年がやってくる。テツのことを十六年前に自分と母親を捨てた父親だと言うが、テツには身に覚えがない。だがテツから来た母親宛の手紙と、誰もが知る由もないテツの背中にある北斗七星の形をしたほくろの存在を言い当てる。ヨシ江は初めて耳にする隠し子の存在に、信じていたテツさんに裏切られたと家を飛び出してしまう。
意気消沈するテツは日頃テツを目の敵にする巡査部長の幸田(配役:岡本昌治)の挑発に乗り町内の相撲大会で憂さを晴らそうと出場するが、又しても駆けつけたヨシ江の声援に動揺して土俵にたきつけられる。そのせいでますます依怙地になるテツ。
トオルはお好み焼き屋に身を寄せ、店の手伝いをして学校に通うことになった。テツは一週間たっても戻らないヨシ江に、心はポッカリと穴が空いたようで、一層賭博場通いに精を出す始末。警察の手入れがあり、テツは持ち前の義侠心から、カルメラ屋の三人を逃すために指揮をとる幸田と対決、相撲大会の借りを返してやると大暴れ。
そんな荒(すさ)んだテツを、恩師の花井拳骨はヨシ江に頭を下げて戻ってもらえと諌(いさ)め、キクやおジィと画策して天王寺公園で二人を対面させる。やっとよいムードになるが、様子を見に来たカルメラ屋の出現であと一歩のところで水を差され、わだかまったまま2人は別々の方向に去る。二人はこのまま別れてしまうのかとチエは心を痛める。周囲もいよいよ二人の仲はおしまいかと諦めかけたとき、トオルの母親、牧野秋代がテツの家を訪れる。
トオルは本当にテツの隠し子なのか? 秋代とテツに何があったのか? 皆の見つめるなか、秋代の口から意外な真相が語られる。それはテツの少年時代のことであった。テツの疑いが晴れ、ヨシ江はテツの元に帰ってくるのだろうか……。
両公演ともすでに終了しているので書かせてもらうと、トオルはテツの鑑別所時代の友人の子供であることが判明。テツの誤解も解け、ヨシ江は家に戻り、ハッピーエンドで幕は下ろされました。
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