価格変動とチエちゃんの収入

テツのひげ

【目次】

消費者物価指数

ここでは、総務省統計局の消費者物価指数を用いてホルモンと酒の価格にせまろうと思います。消費者物価指数とは、全国の消費者が購入する各種の商品(財やサービス)の価格の変化を総合した平均的な物価の変動を示すためのものです。すなわち、ある時点の世帯の消費構造を基準に、これと同等のものを購入した場合に要する費用がどのように変化するかを指数値で示したものです。

消費者物価指数の算出に当たっては、消費者が購入する商品を596の品目に区分して、各品目ごとに支出額に基づくウェイト(消費支出に占める割合)を計算し、各品目ごとの価格を毎月の小売物価統計調査によって調査しています。

ここでは、平成12年の全国の消費者物価指数の年平均を100とした消費者物価指数(以下、物価指数と略す)を用いることにします。

1巻と55巻から分かるホルモンの値段

まず、1巻4ページからおバァはんの店のホルモンが50円だということと、1巻25ページから「チエちゃん」の店のホルモンが50円だということが分かります。このことから、おバァはんの店と「チエちゃん」の店は、価格を同じに設定している可能性がかなり高いことが分かります。

次に、55巻183頁でステーキハウス「ヘレクラブ」のステーキの値段に驚いたおバァはんは次のように言っています。

「わたいとこのホルモン、値上げして一串百円だっせ」

この表現は、かなりあいまいでありますが、値上げして100円になったのか、値上げしたら100円になるかの、どちらかであると考えられます。そして、私が選んだ方は値上げして100円になったという考え方です。何故かというと、もし値上げしてない状態だとしたら、次のように言うのが自然だと思うからです。

「わたいとこのホルモン、値上げしても一串百円だっせ」

ここで、55巻(平成5年)で100円に値上げしたと仮定して、1巻(昭和54年)のホルモンの値段を物価指数を用いて計算してみます。

物価指数(年平均)ホルモンの価格
昭和54年69.871.2円 (1巻)
平成5年98.0100円 (55巻)

この計算だと、1巻で実際に出てくる値段(50円)とずれてしまいます。ここで、55巻のおバァはんの言っている内容の解釈に間違えがあるのではと考えるのが普通であると思います。でも、どうしても自分の中でなにかひっかかるものがありました。そして、ふと思いました。もしかしたら「50円」は昭和54年よりも僅かに古い時代の値段を想定しているのではないかと。そして、時代を考察できるものが何か描かれていないか探しました。そして、1巻80ページに「風と共に去りぬ」という映画の看板があるのに気が付きました。

「風と共に去りぬ」はいつ上映されたのか

「風と共に去りぬ」は最もリバイバル公開(映画館で再上映されること)の多い作品で、分かっているだけでも、10回公開されています。昭和54年以前において1巻80ページの映画の看板と同じ絵柄のチラシがないか調べてみた所、該当するチラシをネットで発見することが出来ました。1967年(昭和42年)と1975年(昭和50年)のチラシです。

物価指数(年平均)ホルモンの価格
昭和45年31.131.7円
昭和50年54.555.6円
平成5年98.0100円 (55巻)

結果は、昭和50年の値段が50円に近くなる結果が得られました。更に自分が調べた結果、1975年の上映期間は7月~12月までとあるので1巻の11月~12月頃の季節(服装などから)ともビンゴします。もちろん、1巻208ページに時代がはっきりしているひとこまがあります。しかし、1巻の11話でそれは確定されますが、それ以前(1巻の10話まで)にはるき先生がどのような考え(イメージ)で、「じゃりン子チエ」を描いていたかは分からないことだと思います。私が言いたいのは、1巻の208ページでは昭和54年の設定(当時の現在)で書かれていますが、連載当初の時代背景は1975年の秋であった可能性があるのではないかということです。ここでは、自分の推理した「昭和50年におけるホルモン1串の値段が50円であった」という仮定の基に話しを展開していきます。

近所のホルモンの値段

ホルモンの値段を考察する時に、まず13巻30ページのおバァはんのセリフが重要になってきます。

「そおですがな近所歩いて見なはれ、ホルモン1本20円も安いのに10円値上げしてどこがいけまへんねん」

このセリフから、13巻で値上げをした後のホルモンの値段は、「近所のホルモンよりも10円安い」ということになります。これだけでは、ホルモンの値段は分かりませんが、チエちゃんの店のホルモンの値段は近所の店に比べて、極端に安いわけではないということが考察できます。

ここで、55巻(平成5年)で100円に値上げしたと仮定して、13巻(昭和57年)のホルモンの値段を物価指数から計算すると、82.8円となります。よって、チエちゃんの店では70円から80円に値上げしたのではないかと思われます。そして、近所の店では90円であったのではないかと考えられます。

ホルモンの値段を大胆予想

物価指数(年平均)近所の店チエちゃん
昭和45年31.840円30円
昭和50年54.560円50円(1巻前半?)
昭和54年69.880円70円(1巻後半)
昭和55年75.280円70円
昭和56年78.890円70円
昭和57年81.190円80円(13巻)
昭和58年82.590円80円
平成元年89.3100円90円
平成5年98.0110円100円(55巻)
平成12年100.0110円100円

値段の唯一分かっているお酒

36巻13ページに、唯一値段の出てくるお酒があります。銘柄は「大将」とあり、価格はコップ一杯300円です。これはかなり貴重なデータですが、決定的なところが分かりません。それは、「大将」が「日本酒」であるのか「焼酎」であるのかということです。焼酎の可能性があるのではと最初に感じたのは、「大将」という銘柄を調べていて日本酒で「大将」という銘柄がなかなか見つからなかったからです。そこで、「焼酎」で調べたところ、「伊豆の大将」や「むぎ大将」といった銘柄を見つけることが出来ました。しかし、36巻を読み返しても決定的な証拠を見つけることは出来ませんでした。そこで、「人間マンホール対ばくだんの王者」の試合に使うとしたら、「日本酒」と「焼酎」のどちらの可能性が高いか考えてみました。まず、試合のルールは負けた方が勝った方の酒代まで払うということなので、「ある程度安くて酔える」お酒を使用するものと考えられます。9巻第7話の「とことんオケラのテツ」という話の中で、常連のお客さんとチエちゃんが以下のような会話をしています。

「あの…ちょっといいにくいけど、焼酎おかわり」
「はーい、安くて酔える焼酎おかわり、安くて死ねるばくだんもあるわよー」

また、アルコール度数で比較すると日本酒は15%、焼酎では25%が一般的なので、お酒の飲み比べ対決をするには、焼酎を使う方が自然だと思いました。しかし、36巻106ページで百合根の気になる一言があります。

「こんな水みたいな酒チビチビ呑めるかい」

アルコール度数でこのセリフを考察すると、日本酒である可能性が高いと思われますが、ばくだん(推定アルコール度数45度)で比較した場合には、焼酎の可能性も否定できないと考えました。ここでは、大将は焼酎であるとみなして話を進めます。また、コップ一杯300円という値段を「普通の店」と比較はしませんが、一般的に普通の店では「原価の2.5倍から3.5倍の値段」でお酒を売るらしいです。

「チエちゃん」のお酒の利益率

それでは、大将を「焼酎」と予想した場合、その利益率はどのくらいになるのでしょうか。ネット販売で1890円(1.8リットル、税込み)の「むぎ大将」という焼酎をモデルにして、価格を計算してみます。

酒税は大きく変動しているので、酒税をまず引いた額を考えます。焼酎(甲類)の酒税率は35.8%(消費税込み)なので、酒税をかける前の額は1391.75円となります。ここで物価指数を使って36巻(昭和63年)の価格を計算してみます。ただ、昭和63年の焼酎の酒税が分からないので、平成元年の酒税(22.7%)を用い、そこから消費税を差し引く方法で計算します(消費税導入は平成元年以降からです)。

物価指数税無し酒税入り (消費税抜き)
昭和63年87.31,215.00円1,420円
平成12年1001,391.75円1,800円

1.8リットルで1,420円だとコップ一杯(200ml)あたり、157.78円となり、利益率は47.41%となります。一般の居酒屋の利益率(60%~70%)と比べると、かなり低い利益率だと考察できます。

あるお酒屋さんの日本酒一升の価格
改訂月特級酒一級酒二級酒
昭和45年9月1,150円860円640円
昭和50年9月1,680円1,280円1,000円
昭和51年1月1,795円1,330円1,000円
昭和52年7月1,900円1,430円1,080円
昭和58年5月2,550円1,800円1,350円
昭和59年5月2,730円1,870円1,380円
平成元年4月2,050円1,750円1,450円
平成3年2月2,200円1,870円1,530円
平成4年4月2,200円1,780円1,580円
平成6年4月2,400円1,900円1,700円

平成元年は消費税が導入された年であります。特級、一級の値段が平成元年に下がっているのは、消費税導入に伴い酒税額が下げられたためであります。また平成6年には酒税の値上げがあり、普通酒(ここでは二級酒と表記)が1,700円となりました。

日本酒と焼酎の価格を大胆予想

上の価格でチエちゃんが仕入れをしているのではないのですが、参考になる資料が他にないので、この価格を基に利益率を47.41%として「チエちゃん」のお酒の価格を類推してみます。なお、焼酎の価格は物価指数と酒税率から計算することにします。また、予測できない価格の所は空白にしときます。

特級酒一級酒二級酒焼酎
昭和45年240円180円140円110円
昭和50年350円270円210円
昭和51年380円280円210円
昭和52年400円300円230円
昭和55年250円
昭和58年540円380円290円
昭和59年580円400円290円
昭和63年300円
平成元年450円390円320円320円
平成3年490円410円340円
平成4年490円390円350円340円
平成6年530円420円380円360円

「チエちゃん」の月収を大胆予想

先に予想した、昭和63年の焼酎の利益率47.41%から、チエちゃんの月収を再計算しようと思います。単行本の20巻89ページより予想される月の売り上げ(154,560円)から、73,277円と予想されます。

ここで、73,277円にその年の大卒初任給と昭和58年の大卒初任給との比をかけて、各時代における「チエちゃん」の月収の推移を予測してみます。なお、月ごとの税金は年間総収入額や各種の控除によって変わってくるため、考慮しないことに致します。

年代大卒初任給 (男子)「チエちゃん」の予想月収
昭和52年101,000円55,983円
昭和56年121,000円67,069円
昭和58年132,200円73,277円 (20巻)
昭和59年135,800円75,272円
平成元年160,900円89,185円
平成3年179,400円99,439円
平成4年186,900円103,597円
平成6年192,400円106,645円

50巻の頃のチエちゃんの時給は?

50巻15ページでチエちゃんが世間のアルバイト相場(時給750~850円)を見て、動揺したのは平成4年の頃であります。平成4年頃のチエちゃんの月収は103,597円であったとすると、月に20日間働いているとして、店の準備も含めて一日6時間働いているとすると、103,597÷(20×6)=863円の時給計算の予想になります。ここから、税金を差し引いた額が純利益になります。仮に税金を10%とすると、863×0.9=777円という予想になります。

最終報告

ホルモン一級酒二級酒焼酎ばくだんチエちゃんの月収
昭和45年30円180円140円110円100円
昭和50年50円270円210円(180円)170円
昭和51年60円280円210円(190円)190円
昭和52年60円300円230円(210円)210円55,983円
昭和54年70円(330円)(250円)(240円)220円(61,526円)
昭和55年70円(340円)(260円)250円240円(64,298円)
昭和56年70円(350円)(270円)(260円)250円67,069円
昭和57年80円(370円)(280円)(260円)260円(70,173円)
昭和58年80円380円290円(270円)260円73,277円
昭和59年80円400円290円(280円)270円75,272円
昭和63年80円(390円)(310円)300円280円(86,402円)
平成元年90円390円320円320円290円89,185円
平成3年90円410円340円(330円)300円99,439円
平成4年90円390円350円340円310円103,597円
平成5年100円(410円)(370円)(350円)310円(105,121円)
平成6年100円420円380円360円320円106,645円

ばくだんの値段は、論文『今明かされる「ばくだん」の真実』で予想した320円を現在の価格とし、消費者物価指数を用いて類推しました。また、チエちゃんの月収に関しては、税金を考慮していません。括弧内は、上下の値から類推した額です。



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LastUpdate 2002/8/1
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